【医薬最前線】第1部 ドラッグ・ラグの行方(1)「薬があるのに使えない」(産経新聞)

 佐賀市に住む高藤吾子(あこ)ちゃん(4)。日本に20人ほどしか確認されていない難病「ニーマン・ピック病C型」と闘っている。

 症状が進行すると脳や神経が破壊され、食べ物が飲み込めなくなる。運動や知的障害も出て、やがて寝たきりになる。

 細胞内の脂質を輸送するタンパク質が欠損してるために、細胞内にコレステロールや糖脂質が蓄積してしまうのだ。

 母親の優美さん(36)は妊娠6カ月目に医師から胎児の心臓や肝臓の肥大化を指摘された。原因が分からないまま出産。生後3カ月でニーマン・ピック病C型と診断された。優美さんと夫の恒泰さん(40)は「2歳までしか生きられない」と宣告された。

 幸いなことに、落ち込む両親をよそに、吾子ちゃんはすくすくと育った。1歳7カ月で一人で歩き、2歳からは保育園にも通い始めた。歌や踊りが大好きで、たくさん笑う。「病気はうそ。このままいける」。恒泰さんは信じた。

 しかし、病気から逃れきるわけにはいかなかった。保育園に通い始めてしばらくすると、頻繁に転ぶようになった。一年中風邪をひいているような状態になり、3歳3カ月になった平成20年の年の瀬に、けいれんを起こして緊急入院した。

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 「とうとう、来たか」。治療法はなく、症状は悪化。昨年春には自力で歩くことができなくなった。「踊ったり、歩いたり…。できていたことがどんどんできなくなっていく。こんなむごいことってあるんですかね…」と優美さん。「覚悟を決めよう」。夫婦で最悪の事態を考えるようになっていったという。

 そんな夫妻を、もう一度、難病に正面から立ち向かわせる転機となったのは昨年5月。同じ難病と闘う千葉県松戸市の水澤理子ちゃん(7)一家を訪ねたことだ。

 「何か治療法はないか」。必死でホームページを検索していくなかで、理子ちゃんの存在を知った。2歳9カ月の時に病名が分かった理子ちゃんは、寝たきり。父親の実さん(43)がホームページ(HP)で、病状が進行する理子ちゃんの様子や看病に必要な知識、海外の同じ病気の患者団体の活動などを詳細に紹介していた。

 恒泰さんから連絡を受けた実さんは、HPを通じて知り合ったやはり同じ難病と闘う他の2家族にも声をかけて対面する機会を設けた。患者の家族会が設立されるきっかけになった。

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 「米国で治験が行われている『ミグルスタット』という新薬に病気の進行を遅らせる効果があるらしい」

 昨年夏、実さんを通じて恒泰さんに、そんな情報がもたらされた。欧州ではすでに治療薬として承認されているという。

 朗報ではあったが日本にはない。個人輸入すれば使うことはできるが、日本では未承認のため保険が適用されず莫大な費用がかかる。その額、年間500万円は下らないという。

 吾子ちゃんの症状は日々、進行している。脳の萎縮(いしゅく)が始まり、ご飯を一人で食べることが難しくなった。

 「薬はある。なのに日本では手が出ない」。恒泰さんはため息をつく。

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 病気の治療に欠かせない医薬。だが、日本と海外とではその流通事情が大きく異なる。『ミグルスタット』以外にも、海外で流通しているのに、日本では手に入らない医薬品が多くある。「ドラッグ・ラグ」と呼ばれるその格差をめぐる、課題や現状をリポートする。

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 ■下がる薬価「採算合わぬ」

 医薬品の流通をめぐって海外と日本との間にある「ドラッグ・ラグ」。製薬会社などでつくる日本製薬工業協会によると、外国で新薬が発売されてから、日本で発売されるまでに平均で4・7年かかっている。これは米国(1・2年)の約4倍の期間だ。

 4・7年もかかるには、理由がある。日本は国民の医療保険の約25%を国がカバーしているため、薬の値段をすべて厚生労働省が決めている。

 薬価は普及の過程で価格が下がるため、厚労省は全医薬品の実勢価格を調査。その結果に基づき、2年に1度の改定で段階的に引き下げている。一方、薬価を原則自由に設定できる米国などでは新薬の価格設定が日本より高い上、薬の特許期間中は価格がほとんど変わらない。このため、製薬企業は「多額の研究費をかけて新薬を開発しているのに、日本市場では採算が合わない」と市場参入に消極的だとされる。

 加えて、日本での承認に欠かせない、安全性を確認するための治験に参加する人が集まりにくいことや、審査に時間がかかることがドラッグ・ラグの原因とされる。

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 乳幼児期に発症し、発熱や炎症を繰り返して弱視や進行性の難聴、歩行困難になるなどの難治性の病気「クリオピリン関連周期性発熱症候群」(CAPS)。ここにもドラッグ・ラグに翻弄(ほんろう)される家族がいる。

 千葉県市川市に住む嶋津勇吾君(3)。

 生まれた直後、高熱や発疹(ほっしん)が続いた。血液検査で炎症の数値が通常の200倍に達し、新生児集中治療室(NICU)に入った。生後3カ月でCAPSの中でももっとも重いタイプの「CINCA症候群」と診断された。国内の患者は20人程度といわれる。

 毎日のように40度近い高熱を出して赤い発疹が出る。全身に炎症を起こす物質ができるため、慢性髄膜炎になり、頭痛や嘔吐(おうと)に悩まされる。炎症のため関節にも激痛が走り、進行すると変形して歩くこともできなくなる。臓器障害から死に至るケースもあるという。

 勇吾君も関節が炎症で腫れ上がり、触れるだけで痛がって泣いた。

 母親の恵美さん(36)は「情報も少なく、大泣きする息子を前に途方に暮れた」と振り返る。

 家族を救ったのは米国で流通していた薬だ。昨年4月、CAPSに詳しい医師の勧めで、米国で大人用のリウマチ治療薬として承認されている「アナキンラ」を使い始めたところ、1日1回の注射で劇的な効果があった。翌日に高熱と発疹が治まり、数日後にはお座りをしたのだ。

 ひざはまだ曲がったままだが、痛みから解放され、近く歩けるようにもなりそうだという。恵美さんは「夢のようです」と涙ぐむ。

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 横浜市の戸根川貴理ちゃん(5)も2歳8カ月まで立つこともできなかった。アナキンラの投与を始めてから3日後につかまり立ちし、1カ月後には歩き始めた。今では元気に幼稚園に通っている。

 CAPS患者にとってアナキンラは劇的に症状を改善してくれる薬だ。しかし、ここでも「未承認」の壁が立ちはだかる。個人輸入の場合、薬代が月10万〜20万円もかかるからだ。

 昨年11月、欧米で効果が確認されている新薬「カナキヌマブ」の国内治験も始まった。勇吾君と貴理ちゃんも参加している。ただ、承認されるかどうかは分からず、安心はできない。

 貴理ちゃんの母親の理登さん(37)は「薬がなければ、子供たちは生きていけない。海外で効果が確認された薬がすぐに国内でも使えるようにしてほしい」と訴えている。

 「承認を待っていると命にかかわる」−。

 こうした患者らの声を受け、厚労省もドラッグ・ラグの解消に向けて動き出した。2月には、医師や薬の専門家ら20人からなる検討会が立ち上がった。患者や学会から要望のあった374の未承認薬などについて、治療の有効性や必要性を評価し、必要と評価された薬は国が製薬会社に開発や治験を要請。国は費用の助成なども検討する。

 検討会の座長に就任した名古屋医療センターの堀田知光院長(血液内科)は初会合で「患者の思いに応えるのがこの検討会の使命。承認基準の変更にまで踏み込んで考えていきたい」と熱意を込めた。

 安全性を確保しながら、どう海外との格差を解消していくのか。死と向き合いながら、病気と闘っている患者、家族らが一日千秋の思いで朗報を待っている。

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